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「BIKE LOVE FORUM in やまなし」開催 安全・デザイン・女性への期待

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●9月20日、「BIKE LOVE FORUM in やまなし」が開かれた。

●二輪車の事故防止と安全教育、バイクデザイン、女性の活躍がテーマ。

●バイクを愛する人たちが一堂に会し、真剣な議論を行った。

9月20日、山梨県甲府市にあるベルクラシック甲府で、「第7回 BIKE LOVE FORUM(BLF) in やまなし」が開催された。
開会冒頭では、経済産業省自動車課・河野太志課長が挨拶に立ち、「世界の経済が不透明、不確実ななか、自動車産業はCASEやMaaSといった大きな変化に直面している。二輪車産業も、戦略的に競争力を高め国内外の市場を牽引してほしい」と挨拶。

河野課長

河野課長

続いて山梨県・長崎幸太郎知事が登壇し、「山梨は“ワイン県宣言”をしたばかり。ミネラルウオーターの生産量も豊富で、日本酒も美味しい。県内をバイクで巡ってぜひ1泊して、温泉、お酒、食事を楽しんでください。大歓迎いたします」と、県の魅力をアピールした。

長野知事

長野知事

このあと経済産業省自動車課・内藤貴浩課長補佐が、BLFが取り組む「二輪車産業政策ロードマップ」の進捗状況を説明。近年の活動による成果が報告された。

パネルディスカッション①――「やまなしを楽しくセーフティライディング」

〈出席者〉
稲垣具志(いながき ともゆき): 日本大学理工学部交通システム工学科 助教
前野克典(まえの かつのり) : 山梨県 リニア交通局交通政策課 課長補佐
中村洋一(なかむら よういち): 山梨県 観光部観光プロモーション課 課長補佐
鶴田治彦(つるだ はるひこ) : 山梨県 二輪車安全運転推進委員会 特別指導員
作田裕樹(さくた ひろき)   :  日本二輪車普及安全協会 安全本部安全普及部 部長
KAZU中西(カズ なかにし) : 伊豆スカ事故ゼロ小隊 隊長

パネルディスカッション第1部は「やまなしを楽しくセーフティライディング」がテーマ。
前半では、前野克典課長補佐が山梨県における交通安全対策の事例を紹介。国道413号・通称「道志みち」ではツーリングライダーに重点的な安全啓発を実施していると話した。また、同県は高校生の原付保有率が全国トップクラスであり、安全運転教育の充実が重要とも指摘した。

左から中村さん、前野さん、稲垣さん

左から中村さん、前野さん、稲垣さん

続いて中村洋一課長補佐は、この日スタートしたBLFの関連イベント「セーフティライディング やまなし ツーリングキャンペーン」(11月30日まで)を紹介。スタンプラリーに参加して、県内を楽しく安全にツーリングしてもらい、気に入った観光スポットなどを広く宣伝してほしいと呼びかけた。
後半は稲垣助教が座長を務め、ツーリング時の安全と、原付など生活交通における安全とを切り分けてディスカッションを進行した。

左から鶴田さん、中西さん、作田さん

左から鶴田さん、中西さん、作田さん

10年前から伊豆スカイラインなどで安全啓発に取り組むKAZU中西さんは、「ツーリング中の40~50代のライダーの事故が多い。自分が気をつければ安全なのではなく、周囲への気配りによる自制心こそが大事」と話す。安全運転指導員を27年間続けている鶴田さんは、「安全講習会で技能を高め、それを“気持ちのゆとり”に回してほしい」と話した。一方、作田さんは原付に焦点をあて、高校生のバイク禁止を撤廃した埼玉県の事例を紹介。「“隠れ乗り”をする生徒がいなくなり、オープンな形で安全講習が実施できるようになった」と話した。稲垣さんは、「道志みち」でオリンピック・パラリンピックの自転車競技が行われることを踏まえ「道志みちの事故をなくして、山梨から世界へライダーの高いモラルを示したい」と議論をまとめた。

トーク対談――「新時代令和 これからのバイクデザイン」

〈出席者〉
松下尚司(まつした ひさし):(株)モーターマガジン社 『オートバイ&RIDE』編集長
美環   (みかん)      :フィギュアの原型師
福本圭志(ふくもと けいし):川崎重工業(株)モーターサイクル&エンジンカンパニー技術本部デザイン部 部長
澤田琢磨(さわだ たくま) :本田技研工業(株)二輪事業本部ものづくりセンター 技術主事 デザイナー

松下さんの司会で、終始笑いがあふれるトークショーになった。澤田さんは、「バイクデザインとは、平面のスタイリングを描くことだけでなく、何を作るのか、コンセプトを実現するのが仕事」と、デザイナーの役割について話した。

05_新時代令和これからのバイクデザイン
福本さんは、「欧州メーカーは昔からブランド力があり、質の高いデザインにこだわっている。日本メーカーも、今後はもっと自社ブランドを強く意識したデザインが大事になる」と話した。

左から福本さん、澤田さん

左から福本さん、澤田さん

美環さん、松下さん

美環さん、松下さん

美環さんは、「マンガやアニメの影響でバイクに乗り始めました。サブカルから見てカッコいいバイクを作ってほしい」とリクエスト。松下さんは、「新しいデザインは新しいストーリー(価値観)からしか生まれない、そのことがよくわかるディスカッションでした」と、話していた。

パネルディスカッション②――「女性ライダーを増やすために」

〈出席者〉
川崎由美子(かわさき ゆみこ):二輪ジャーナリスト
松崎祐子(まつざき ゆうこ) :WEB Lady Go Moto 元主宰
渋谷有佳(しぶや ゆか)   :ビギナーライダー
山根智子(やまね ともこ)  :ビギナーライダー
小田切いくみ(おたぎり いくみ):アナウンサー(フォーラム全体の進行役)

パネルディスカッション第2部は、川崎さんの司会で、「いかに女性ライダーを増やすか、業界に求めること」をテーマに、忌憚のない意見が交わされた。
はじめに川崎さんが、1970年代から現在までの日本の女性ライダーの歩みを紹介。アパレルの変遷、遊び方の変化、クラブ活動などを紹介した。

左から小田切さん、山根さん、川崎さん

左から小田切さん、山根さん、川崎さん

続いて、女性ライダーを増やすためのアイデアを意見交換。バイク経験の豊富な松崎祐子さんは、「女性が働きやすい環境を作ることで、二輪車業界で働く女性の姿が増えれば、女性ライダーはどんどん増えると思う」と、会場に呼びかけた。

左から松崎さん、渋谷さん

左から松崎さん、渋谷さん

ビギナーライダーの山根さんは、「私は身体が小さいので“足着き”が不安です。先日さっそく立ちゴケしました」と話す。渋谷さんも、「“足着き性”は大事ですよね。新車購入のときにシート高をオーダーできると嬉しい」と付け加えた。バイクに乗っていない小田切さんは、「いろいろお話を聞いて、安全に乗れるという納得があれば、もっと女性もバイクに乗るようになるのでは」と、感想を話した。

エンディング――次回開催自治体は「大阪府」

プログラムが終了し、一般社団法人日本自動車工業会二輪車特別委員会・日髙祥博委員長が総評を行い、議論を振り返り、「大人のライダーがカッコいい見本になって、若者にバイクの安全とマナーをもっと広めたい。高校生への安全教育は、行政への働きかけを進めたい。これからのバイクデザインは、ブランドの主義・主張がカギになる。女性にとってはバイクの足つき性など、解決すべき課題だと受け止めた」とまとめ、その実現に向けてBLFをいっそう活用していくと述べた。
そして次回は、大阪府での開催が決まり、大阪府商工労働部産業創造課の岡野春樹課長が「2025年には大阪万博もあり、次回のBLFでは、バイクの技術的イノベーション、マーケティングについてもぜひ議論してほしい」と、挨拶した。
最後は、全国オートバイ協働組合連合会の大村直幸会長が「二輪車市場を盛り上げるため、まだまだ議論が必要。大阪ではいっそうの成果を目指したい」と閉会の辞を結んだ。

日高委員長

日高委員長

岡野課長

岡野課長

大村会長

大村会長

JAMA「Motorcycle Information」2019年10-11月号/ズームアップより
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:「BLFinやまなし」開催


時代の波に乗るレンタルバイク 需要の源泉とトレンドを探る

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●バイクのレンタルビジネスが、市場を拡大し活況を見せている。

●さまざまなレンタルメニューが次々投入され、活性化につながっている。

●店舗を持たない“セルフレンタル”といった画期的なサービスもある。

高級車、別荘、ボート、ブランド品など、世の中では“借りて楽しむ生活”が一般的になりつつある。バイクのレンタルもこの10年ですっかり定着し、“借りて乗るライダー”の数は確実に増えている。注目されている3つのブランドを訪ね、ビジネスのトレンドを探った。

成長するレンタルバイクビジネス

いまやバイクのレンタルサービスは、二輪車販売店はもちろん、専門ショップ、バイク用品店、空港、駅、高速道路のサービスエリア、ガソリンスタンド、教習所など、いろいろな場所で営業されている。
国の統計資料によると、全国のレンタルバイク事業者数は2018年3月末現在で220事業者、車両数は2,789台*注。2013年と比較すると、事業者数は約1.3倍、車両数は約1.5倍に増えている。業界関係者は、「レンタルバイクの市場規模は全体で10億円を超えようとしている。成長ビジネスとしての可能性はこれからが本番で、事業を拡大するためのアイデアは豊富にある」と意気込む。
*注:車両数に原付二種以下(排気量125㏄以下)は含まれていない。

全国の二輪車販売店をネットワーク――モトオークレンタルバイク

自動車・二輪車などのオークションを運営する株式会社オークネット(東京都港区)が、「モトオークレンタルバイク」(以下モトオーク)のブランドで事業を開始したのは2012年のこと。二輪車オークションのネットワークを基盤に、現在、全国121の二輪車販売店が事業に参加。年間の貸し出し台数(稼働車両数)は延べ5,700台を超えている。
モトオークの場合、ユーザーはWebサイトで自分の条件に合った車両を選んで予約し、該当する二輪車販売店でバイクを借り出すことができる。広報担当者は、「ユーザーは、二輪車販売店で車両を借りられることに安心感があるようです。車両の品質や状態について、販売店が扱っているという信頼感が大きいのです」と話す。

オークネットのオペレーションルーム

オークネットのオペレーションルーム

店ごとの独自キャンペーンなど“お得なサービス”も

特徴的なのは、モトオークのレンタルシステムを活用している二輪車販売店のなかには、独自のブランドとアイデアを前面に出してサービスを行っているケースがあることだ。
たとえば今年3月にオープンした「K ユーズド&レンタル東京」(東京都大田区)は、カワサキモータースジャパン株式会社の直営店。カワサキが市販している全機種・全カラー(現在40台)のなかから目当ての車両をレンタルできるのが特色。今年の“鈴鹿8耐”でカワサキが優勝した際には、一部のレンタル料を無料にするなど、専門ブランドならではのお得なサービスも企画している。

Kユーズド&レンタル東京の店内

Kユーズド&レンタル東京の店内

「バイカーズステーション金沢」(石川県金沢市)は、北陸新幹線の開通でアクセスが便利になり、地域の観光振興の観点から、レール&レンタルバイクによる旅の楽しさをアピールしている。とくに首都圏の女性ライダーをターゲットにして、「レンタルバイクで行く女子能登旅」と銘打って、インスタ映えするスポットを押さえたツーリングルートを提案。女性スタッフがバイクで同行して、観光ポイントやグルメを案内するなど、レンタルバイクでの旅を2倍、3倍と楽しめる企画が人気を呼んでいる。

バイカーズステーション金沢

バイカーズステーション金沢

モトオークでは、「レンタルバイク事業をうまく活用することで、お店の売り上げだけでなく、さまざまなメリット、活性化につながります。2012年当初は消極的だった販売店も、いまでは参入に関心を持つ店が増えています。今後、さまざなサービスメニューを開発して、レンタルバイクのネットワークをいっそう拡大していきたい」と話している。

ピカピカのスポーツバイクを楽しめる――レンタル819

株式会社キズキレンタルサービス(埼玉県川口市)は、「レンタル819」のブランド名で全国展開している。“借りて楽しむバイク”の定着に大きく貢献してきたブランドだ。
同社では、「憧れのスポーツバイクを、レンタルで楽しめるようにしようというのが最初の発想でした。いつでもピカピカの新しいバイクを貸し出すことで、ワクワク感をもって楽しんでもらえる。そういうサービスにこだわってやってきました」という。

レンタル819(新千歳空港店)

レンタル819(新千歳空港店)

レンタル819は、全国で直営店が7店舗、フランチャイズ店が139店舗あり、年間約7万件の利用実績がある。こうした需要の源泉はどこにあるのか――。
「いまの時代は、所有することにストレスを感じる人が増えているんです。とくに若い人たちは、月に何回も乗らないのに、車検、タイヤ交換、駐車場の更新、保険、税金と、やることが多くてウンザリ。レンタルなら、自分は何もしなくても、ちゃんと整備されたバイクが出てきてツーリングが楽しめます。借りて乗るほうが気軽で便利だという考えは、徐々に広まっています」(同社広報)
また、40代以上の世代になると、むしろ“所有したい人たち”がバイクを借りにくるという。「つまり、バイクを購入する前に、試乗してみたいという人たちです。弊社はニューモデルを多くそろえていることもあって、試乗目的のレンタル需要はかなり大きい。あとは、スポーツバイクを1台所有したうえで、オフロード、クルーザーなどほかのジャンルにも乗りたいという人など、高収入のユーザーが増えています」という。

さまざまな需要に応じたサービスを展開

レンタル819では、ユーザーのニーズを捉えてさまざまなプランを企画し、積極的に商品化している。最近、とくに人気があるのが、「マイガレ倶楽部」(マイガレージクラブ)という会員制のサブスクリプション。年間契約を結んで月額固定でのレンタル料金を支払うことで、設定された車両のなかから好きなバイクを年間24回まで(月3回、1回24時間が限度)レンタルできるというもの。グレードによって異なるが、たとえば排気量1,100ccのスポーツモデルを年に24回借りた場合、通常だと44万6,400円かかるところ、マイガレ倶楽部なら11万7,600円で利用できる(2019年9月1日現在)。破格のコストパフォーマンスが注目され、現在、約2,000人が会員となっている。
また今年6月から始めた新サービス「Kurabe-gai」(くらべ買い)は、バイクの購入を検討している人を対象に、人気のバイク3台をパッケージにして、1カ月に1台ずつ、3カ月にわたって利用できるプラン。じっくり乗り比べて、納得のバイク購入に役立ててもらおうという商品だ。

レンタルバイクに革命をもたらす――ベストBike

駅近くの駐車場に置いてあるバイクを24時間いつでも好きな時間に借り出せる。ショップが存在せず、対人での手続きがないから、深夜の出発、早朝からのツーリングもまったく問題なし。そんな画期的なサービスが「ベストBike」の“セルフレンタル”だ。
どんな仕組みでそれが可能なのか――。バイクをレンタルするのに必要な情報のやり取りと手続きは、すべてベストBikeのWebサイトで行う。まずユーザーは、同サイトに免許証の画像を送信して会員登録を済ませる。利用日時と、借りたいバイク、借り受ける場所(指定バイク駐車場)を予約。料金はカードまたは銀行振り込みで決済される。駐車場には利用開始時刻までにバイクが搬入されており、ユーザーはメールで知らされた暗証番号をもとにキーボックスから鍵を入手。これでバイクが借り出せる。
返却も簡単で、燃料を満タンにして、借り出した駐車場にバイクを駐車。鍵をキーボックスに封入し、駐車したバイクの写真を専用Webサイトへ送信する。これで終了だ。

 

●借り出しの手順

●借り出しの手順

●返却の手順

●返却の手順

このサービスを運営している株式会社ベストBikeは、2016年に創立した新しい会社。現在、レンタル車両は150台ほど稼働している。貸し出し拠点となるバイク駐車場は全国で130カ所ほどあり、駅や空港に近いのでアクセスに便利なのが特徴だ。
同社では、「レンタルバイクをもっと身近で便利なものにしたいという思いがあって、考えに考え抜いたシステムです。誰にも会わずにスマホ1つで完結するので“セルフレンタル”と呼んでいます」と話す。

駐車場から借り出すセルフレンタル

駐車場から借り出すセルフレンタル

シェアリングに発想を得たレンタル車両の供給

現在、ベストBikeは、本部の実績だけで年間延べ1,000台の稼働台数がある。これから事業を拡大するために必要なのは、セルフレンタルの拠点となる駐車場の確保と、レンタル車両の供給だ。
同社では、「拠点拡大は、大手駐車場事業者との連携を進めているところです。レンタル車両の供給については、いま取り組んでいるアイデア、いわゆるシェアリングの発想に近いのですが、一般個人が所有するバイクを、レンタル車両として貸し出してもらうのです」という。
つまり、バイクを持っている個人が、レンタル車両のオーナーとしてベストBikeに登録し、ユーザーからの予約が入ったら、自分で自分のバイクを指定の駐車場に設置する。あとは返却通知を待って、車両の回収に向かうという仕組みだ。現在の規定では、レンタル料金の60%がオーナーの収入になる。1,000㏄クラスのスポーツバイクを24時間貸し出すと、1回で約1万2,000円が支払われる。
「乗る機会が少なくてバイクを手放そうか迷っている人は案外多いもので、他人に乗ってもらうことで自分のバイクが利益を生むなら置いておきたいという人がけっこういるんです。利用者からも家族からも喜んでもらえますからね。オーナーの数は思った以上に増えています」(同社担当者)。本格的な軌道に乗れば、レンタルバイクに革命をもたらすビジネスモデルといえそうだ。

JAMA「Motorcycle Information」2019年10-11月号/特集より
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:時代の波に乗るレンタルバイク

 

電動バイク普及への取り組み 見えてきた可能性と課題(さいたま市)

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●さいたま市は、電動バイクの普及を促進する取り組みを行っている。

●電動バイクを利用した市民の評価は上々だ。

●バイク未経験者の満足度が高い一方で、課題はバッテリー切れへの不安。

一般市民の電動バイク利用をモニタリング

電動バイクの普及に向けて、さいたま市と二輪車メーカーが協力して実証実験(利用モニタリング)を行っており、その第4期の実験が2019年10月末日に終了した。
取り組みを行っているのは、さいたま市、本田技研工業、ヤマハ発動機で組織する「電動二輪車実証実験推進協議会」。2017年2月に発足し、これまで4期にわたる実験を通じて、電動バイク普及の可能性を探ってきた。実験は、市民に電動バイクを有料で貸し出し、一定期間利用してもらい、車両の実用性や使用感などをモニタリングし、普及へのヒントをあぶり出そうというもの。第1期から第4期までの実験結果について、さいたま市の担当者に話を聞いた。

●電動バイク実証実験(第1期~第4期)の期間とモニター人数および使用車両

●電動バイク実証実験(第1期~第4期)の期間とモニター人数および使用車両

モニターの8割以上が「便利」と評価(第1期)

さいたま市 環境未来都市推進担当によると、第1期のモニター25人のうち、50%が電動バイクを「ほぼ毎日利用」し、32%が「平日のみ利用」、18%が「不定期利用」という状況だった。そして全体の82%が、「モニターになって便利と感じた」と答えており、電動バイクの導入によって生活の利便性が向上し、満足感を得ているモニターが多いことがわかった。
満足感について詳しく見たのがグラフ1で、「移動が楽になった/楽しくなった」(62.5%)、「経費の節約になった」(58.3%)、「自宅⇔駅間の移動が楽になった」(58.3%)といった項目で、評価が高かった。

●グラフ1:実証実験(第1期)モニターの感想

●グラフ1:実証実験(第1期)モニターの感想

一方、電動バイクの走行性能については全体の55%が、スピードや加速力、1回の充電で航続できる距離(29㎞=30km/h定地走行テスト値)に不足感があると指摘した。
さいたま市の担当者は、「バイク(ガソリン車)の利用歴がある人の6割以上が電動バイクの走行性能に物足りなさを感じたようです。しかし、バイクの利用歴がない人の7割以上が走行性能に不満を感じませんでした。バイクの未経験者のほうが、電動バイクに馴染みやすいのではないかと考えています」と話す。

電動バイクを気に入って購入した人も(第2期)

そこで実証実験の第2期では、過去にバイクの利用歴がない人や、女性、学生を中心にモニターを募集した(16人)。実験結果をみると、利用頻度は「ほぼ毎日」が24%、「平日のみ利用」が53%、「不定期利用」が24%。そして「モニターになって便利と感じた」のは全体の88%と、第1期よりも評価はさらにアップした。
満足感の内容をみると(グラフ2)、すべての項目で第1期より第2期のほうが肯定的な回答が増え、電動バイクをより好意的に受け止めていることがわかる。

●グラフ2:実証実験(第2期)モニターの感想

●グラフ2:実証実験(第2期)モニターの感想

実際、モニター期間を終えた後、電動バイクを購入する人もいて、決してうわべだけの評価ではない様子。20代の女性モニターは、「音が静かでいいですね。走り出すのが怖くない。ガソリンスタンドも苦手なので、給油に行かなくてすむところもいい」と、気に入った点について話している。

原付二種の電動バイクを実証実験(第3期)

ただ課題としては、第1期、第2期とも、走行性能や航続距離の不足を指摘する声があったため、第3期の実証実験では、2018年11月に発売された原付二種の電動バイク、ホンダ「PCX ELECTRIC」を使ってモニタリングを実施することにした。バイク利用歴のある30~50代の男性4人が、3カ月間にわたって利用した。

実証実験に使用したPCX ELECTRIC

実証実験に使用したPCX ELECTRIC

実験終了後のヒアリングでは、モニターはそれぞれ、「小回りが利いて、使い勝手が良かった」、「移動経費の節約になった」と、好感触。この電動バイクは1回の充電で41km(60km/h定地走行テスト値)走行できるため、自宅から会社までのダイレクト通勤にも問題なく利用できたという。
さいたま市の担当者は、「原付二種の電動バイクになると、市内の通勤利用ならば航続距離への不安はないようです。外出先で急速充電ができればもっと便利になるという意見もありました」という。

電動バイクを安心して利用するために(第4期)

こうして電動バイクの利便性はある程度実証された一方、原付一種には航続距離への不安という課題がまだ残っていた。そこで実証実験第4期では、試験車両を再び原付一種のヤマハE-Vinoに戻し、モニターを10人募集。航続距離への不安をいかに解消するかに焦点を当てて、モニタリングを行った。

再びE-Vinoでモニタリングを実施する

再びE-Vinoでモニタリングを実施する

第1期と第2期では指定の駅駐輪場でバッテリー交換サービスを行ったが、新しい取り組みとして、第4期では市内に5カ所*注のバッテリー交換ステーションを設置した。これによってバッテリー切れの不安が緩和され、電動バイクの行動範囲が拡大するか検証しようというものだ。

*注:バッテリー交換ステーションは、①さいたま市役所、②さいたま市美園コミュニティセンター、③さいたま市馬宮コミュニティセンター、④サイデン化学アリーナ(さいたま市記念総合体育館)、⑤さいたま市岩槻区役所の5か所に設置した。

 

さいたま市の担当者は、「わずか10人のモニターです、場所によっては頻繁に使われたステーションがあったので、多くの人のニーズに合う場所にステーションを設置することで、電動バイクの“息継ぎ”が可能になり、バッテリー切れの不安を払拭できる可能性はありそうです」と話す。

普及へのヒントと課題が見えてきた

007_電気バイク

また、さいたま市の担当者は、次のように全体の成果についてまとめた。「これまでの実証実験の結果を踏まえると、電動バイクの有用性は認められ、通勤・通学や用足し、シェアリングでの利用、配達業務などのビジネスユース等、さまざまな活用が望めそうです。走行性能の不足感など指摘はありましたが、初めてバイクを使う人にとっては大きな問題ではありません。とくに女性や若者には抵抗感が少ないことがわかり、電動バイクを訴求していくヒントになりそうです。いまいちばんの課題は、どうしても電動車両は価格が高いため、なかなか普及への弾みがつかないこと。また、バッテリー交換ステーションといったインフラをどう整えるかが、今後の課題といえそうです」と話していた。

JAMA「Motorcycle Information」2019年12月号/ズームアップより
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:電動バイク普及への取り組み見えてきた可能性と課題(さいたま市)

金メダル級の活躍が期待される! 世界選手権Moto3に挑む日本人ライダー

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●2020年「ロードレース世界選手権・Moto3」に日本人ライダー6人が参戦。

●どの選手もグランプリで優勝できるレベルにあり、活躍が期待できる。

●若手ライダーを育成するプログラムが確実に実を結んでいる。

2020年、話題を呼ぶスポーツコンテンツは、オリンピックだけではない。今年はモーターサイクルスポーツにも、とくに注目すべきレースカテゴリーがある。若きライダーの登竜門、「ロードレース世界選手権・Moto3」(Moto3)だ。2020年シーズンのMoto3には、日本人ライダー6人が出場することになり、“金メダル級”の活躍が期待される。

2020年はMoto3が熱い(2019年日本GP)

2020年はMoto3が熱い(2019年日本GP)

Moto3で活躍し始めた日本の若手ライダー

ロードレース世界選手権のMoto3は、最高峰のMotoGP、Moto2に次ぐカテゴリーで、2012年から開催されている。レースは、250cc・単気筒・4ストロークのレース専用マシンで競われ、2020年は世界各国で全20戦が行われる。出場するライダーには年齢制限があり、初回出場は16~25歳まで、継続出場は28歳までとなっており、若手ライダーがここを踏み台にして、Moto2、MotoGPへとステップアップを図る流れになっている。
近年のMoto3への日本人ライダーの出場(スポット出場を除く)状況をみると、2016年に2人、17年に3人、18年に4人、19年に5人、そして20年は6人と、年々増えてきた。とくに2019年シーズンは、第1戦のカタールGPでいきなり鳥羽海渡選手が優勝し、日本人によるMoto3初優勝が大きな話題になった。
しかも、昨シーズンは鳥羽選手だけでなく、第13戦のサンマリノGPでは、鈴木竜生選手がポールポジションから初優勝。続いて第14戦のアラゴンGPでは、この年、初めてレギュラー参戦していた小椋藍選手が2位で表彰台に上るなど、早くも高い能力をアピールした。
2020年はこの3人に加え、2017年のMoto3でルーキーオブザイヤーを獲得した佐々木歩夢選手が継続参戦、また、スペインで開催されている「レプソル CEV Moto3ジュニア世界選手権」(CEV世界選手権)で好成績を挙げた山中琉聖選手と國井勇輝選手が新たにレギュラー参戦する。どのライダーもグランプリで優勝できるレベルにあり、シリーズチャンピオンの誕生にも期待がかかるところとなっている*注。

*注:2020年のロードレース世界選手権は、最高峰のMotoGPには中上貴晶選手(2019年ランキング13位)、Moto2には長島哲太選手(同14位)が継続参戦することになっており、この2人の活躍も大いに期待されている。

 

●2020年ロードレース世界選手権・Moto3に出場する日本人ライダー
02_●2020年ロードレース世界選手権・Moto3に出場する日本人ライダーHonda Team Asiaに取材し、同チームのライダー2人に開幕前の意気込みを聞いた。また、監督の青山博一さんには、グランプリで勝つための秘訣について尋ねた。

小椋 藍選手「年間ランキング3位以内を目指す」

Honda Team Asiaから参戦2年目となる小椋選手は、埼玉県出身の18歳。昨年1年間のMoto3出場経験で、大きく成長している。「初年度の目標だった表彰台を獲得できて、自信になりました。ただ、得意なサーキットと苦手なサーキットがあって、それが結果に出てしまいます。細いコーナー、速いコーナー、路面の状態とか、コースの好き嫌いをいかに克服できるか、今年は対策を考えます。目標は年間ランキング3位以内。安定して上位の成績を残せれば、きっと手が届くと思います」と話す。アスリートらしい真摯な印象の青年だ。
ホンダのエースライダーとして、さらに成長した走りが期待されている小椋選手。2020年は、勝負をかける年になる。

小椋 藍選手(ゼッケン 79)

小椋 藍選手(ゼッケン 79)

國井勇輝選手「バイクに乗ったら年上も年下もないですよ」

「レースで優勝するときは、いつもスタートからトップに出て引き離すパターンです。それが自分の会心の走りですね」と話す國井選手。「逆にいうと、バトルになるとなかなか勝てなくて、行くべきところで引いてしまったり、そのへんがまだまだかな」と、課題を素直に認めるところが初々しい。東京都出身の16歳、笑顔に屈託がない。
3歳でポケバイ、9歳で鈴鹿サーキットレーシングスクールに通い、2016年には13歳で「アジア タレント カップ」へ出場。翌17年から欧州に進出し、18年には「CEV世界選手権」でランキング6位となり、頭角を現した。19年はケガに泣かされたが、速さが認められてMoto3への切符を手にした。今シーズンの目標は、「チームメイトの小椋さんが初参戦で表彰台に立っていますから、自分もそれを超える結果を残したいと思います」と、勝利を誓う。ホンダが期待を寄せる大物ルーキーのデビューが楽しみだ。

國井勇輝選手(ゼッケン 92)

國井勇輝選手(ゼッケン 92)

青山博一監督「チームを一丸にするライダーが強い」

Honda Team Asiaを率いるのは、元MotoGPライダーの青山博一さん。監督に就任して今年は3シーズン目の采配となる。
「私の現役時代は、20歳を過ぎて世界選手権へ進むのが普通でしたが、いまや欧州では10代のライダーがどんどん育っていて、みんなMoto3を目指してきます。日本の若いライダーが世界へ進出できる環境も、やっと最近整ってきたところなのです」と話す。
チームの展望については、「小椋は世界選手権1年目でランキング10位でした。シリーズ中盤からパフォーマンスを上げて、後半はシングルフィニッシュしていたので、当然、今年はチャンピオンタイトルに挑戦です。國井もここ2、3年で欧州のレースに馴染んだので、初参戦でも優勝できるチャンスはあるはず。2人で少なくとも4勝は挙げてほしい」と、目標を掲げた。

青山博一さん

青山博一さん

青山さん自身、2009年にMotoGP・250㏄クラスで世界チャンピオンとなり、ライダーとしての栄光も、苦しい時期の辛さも知り尽くしている。これからMoto3の頂点を目指すライダーに必要なこととは何か尋ねてみた。
「若いライダーに足りない部分でいうと、レースウィークの金、土、日の組み立て方、つまりレース本番に向けた練習走行と予選、そこで出てくる問題をどう改善していくか、大きな流れをコントロールする経験値です。ライダーが自分のパフォーマンスを100%発揮するには、ライダー自身が自発的に考えて行動し、チームの団結力をレース本番へと集中させていくことが大事。それが勝つための秘訣なのです」と語った。

Moto3へ出場するライダーたちのプロフィール

●鈴木竜生(すずき・たつき)選手/千葉県出身・22歳
チーム:SIC58 Squadra Corse(マシン:ホンダ) ゼッケン:24

鈴木選手は2015年からMoto3にフル参戦。Moto3への挑戦が5シーズン目となった2019年は、第4戦のスペインGPで自身初の表彰台となる2位を獲得。第13戦のサンマリノGPで、初のポールポジションを獲得し、決勝レースではついにGP初優勝を果たした。年間ランキングは8位。2020年はさらなる躍進が期待される。

06_鈴木竜生選手

●山中琉聖(やまなか・りゅうせい)選手/千葉県出身・18歳
チーム:Estrella Galicia 0,0(マシン:ホンダ) ゼッケン:0.6

山中選手は、2015年に14歳で「アジア タレント カップ」に出場。2017年は、「MotoGPルーキーズカップ」へも進出し、ランキング6位と自己をアピール。2019年は、「CEV世界選手権」に出場し、第2戦では優勝を獲得するなど、好成績を挙げた。2020年は、いよいよMoto3へ初のレギュラー参戦となる。

07_山中琉聖選手

●鳥羽海渡(とば・かいと)選手/福岡県出身・19歳
チーム:Red Bull KTM Ajo(マシン:KTM) ゼッケン:27

鳥羽選手は、2014年「アジア タレント カップ」の初代チャンピオン。16年には、「MotoGPルーキーズカップ」で2勝を挙げランキング5位。「CEV世界選手権」でも優勝を果たしてランキング4位となり、大きく前進した。
2017年からは、Moto3へ挑戦。2019年には、第1戦で見事優勝。2020年はKTMへ移籍し、新規一転、王座を狙う。

08_鳥羽海渡選手

●佐々木歩夢(ささき・あゆむ)選手/神奈川県出身・19歳
チーム:Red Bull KTM Tech 3(マシン:KTM) ゼッケン:71

佐々木選手は2015年「アジア タレント カップ」のチャンピオン。続く16年は、「MotoGPルーキーズカップ」で日本人初のシリーズチャンピオンを獲得。2017年にMoto3へ挑戦し、ルーキーオブザイヤーを獲得。2018年、2019年と、ランキング20位で足踏みしたが、ライダーとしての非凡な能力をアピール。2020年は、大いに巻き返しが期待されている。

09_佐々木渉夢選手

写真:鈴木、山中、鳥羽、佐々木選手の各写真は「ライディングスポーツ」提供
JAMA「Motorcycle Information」2020年1-2月号/特集より
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:金メダル級の活躍が期待される!世界選手権Moto3に挑む日本人ライダー

元気な暮らしを支える 原付普及率が日本一のまち!(後編)

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●統計をもとに、全国の市区町村から原付の普及率が高いまちを割り出した。

●1万世帯以上を擁する都市のなかで、ナンバーワンは和歌山県有田市。

●原付がどのように使われているか、現地を訪ねてみた。

前回の前編では、20万世帯以上を擁する全国の都市(47団体)で、原付(50㏄以下)の世帯当たり保有台数(普及率)を割り出し、第1位の愛媛県松山市を紹介した。今回の後編では、全国の1万世帯以上を擁するまち(883団体)で、原付の世帯普及率を算出した結果、和歌山県有田市が日本一だった。

原付普及率が日本一のまち(和歌山県有田市)

原付普及率が日本一のまち(和歌山県有田市)

有田市の原付保有台数は4,995台で、1,000世帯当たり427.7台(42.8%)となる。まちの家々の4割に原付がある有田市とはいったいどんなまちなのか、現地を訪ねてみた。

 

有田市・みかん生産と漁業のまち

まず有田市役所を訪ねた。経営企画課の大松満至課長は、「和歌山県や愛媛県に原付が多いと聞いて、共通の特産品であるみかん生産と何か関係があるのか、関心が湧きました」と話す。

パンフレットを前に有田市をPRする大松さん

パンフレットを前に有田市をPRする大松さん

大松さんは、「みかんは降水量が少ない水はけのよい土地で栽培することで、甘くておいしいものが育つのです。日当たりと海からの風も大切で、南西向きの段々畑が山の斜面にたくさん見られます。急斜面の狭い道路の移動には、原付が使われている可能性が高いですね」という。
「しかし、当市に原付が多いのはほかにも理由があります」と、大松さん。「原付の保有状況を地区ごとに調べたら、宮崎、千田、港地区に集中しています。いずれも漁師町なのです。3地区合わせて約4,000世帯に、約2,000台の原付が保有されています。世帯普及率50%という驚くような状況です。ぜひ現地の様子を調べてみてください」と、アドバイスしてくれた。

みかん山へのアクセスは原付でGO!

まずは、みかん農家の仕事に原付が利用されているか確かめるため、みかんを生産・加工する株式会社早和果樹園を訪ねた。
この果樹園は、地元の7軒の農家が集まって設立した企業で、みかんを生産するだけでなく、ジュースやゼリーなどに加工することで商品価値を高め、業績を伸ばしている。経験豊富なみかん農家の高齢スタッフと、新規に入社した若手スタッフが共に働いているユニークな果樹園だ。
突然の取材にもかかわらず、同社EC事業課の藤原良太さんが快く応じてくれた。「みかんの生産に原付が使われているかどうかですが、収穫は軽トラックが主流です。ただ、そういわれてみれば、とにかくみかん農家の人たちは、原付で山に上っていますね」という。
さらに藤原さんは、「みかんの栽培には1年中作業があって、山に上らない日がないほどです。剪定作業ならハサミ一つあればできるので、バイクでサッと上って仕事して帰ってくる。収穫のときはたくさん人手が必要なので、軽トラックが1台行ったら、あとの手伝いさんはみんな原付で上って行って作業するのです」と話す。みかん山では、老いも若きも原付がベストコミューター。日々の作業に欠かせない足なのだ。
原付で出勤してきている従業員に話を聞きたいと頼んだところ、仕事中の手を休めて、われもわれもと8人が自分の原付を伴って集まってくれた。
ベテランの女性スタッフは、「朝はおとうさんが軽トラックで山へ出かけて、わたしは家事があるから後でバイクで追っかけるわけ。70歳過ぎたけど、コレ(原付)があれば山に上るのだってなんともない」と、高らかに笑った。

早和果樹園の従業員(皆さん原付ライダー)

早和果樹園の従業員(皆さん原付ライダー)

1人に1台“マイバイク”が普及する漁師町

有田市内にあるバイクショップ、有限会社エヌ・ワークスを経営する中村守男さんに、有田の漁師町になぜ原付が多いのか話を聞いてみた。「そこは古い地区のため住宅が密集していて、路地が狭く、軽自動車も奥まで入れません。地区内での移動は原付か自転車です。原付が一家に4、5台ある家もあります」という。

エヌ・ワークスの中村社長

エヌ・ワークスの中村社長

出漁は毎日、午前2~3時。自宅から港まで男たちがわれ先にと原付で出かけていく。船が漁から戻って来ると、魚の仕分けや運搬の手伝いに今度は女たちが原付で港へ駆けつける。「漁師は気が短いから、もたもたするのが嫌いなんですよ。だからクルマよりも、自転車よりも、いちばん重宝されているのが原付なんです」とのことだ。
実際に、宮崎地区へ足を運んでみた。町全体が入り組んでダンジョンのようになり、原付1台通るのがやっとの狭い路地。まるで映画のセットのような静かなたたずまいに感嘆するばかりだが、しばしば原付のエンジン音が近づいてくるたび、生活の息吹を実感する。
家を1軒1軒、眺めながら町内を歩いたが、ほとんどの家の庭先や軒下に原付が置いてある。2~3台とめてある家も少なくない。

 

_軒先に原付が置かれている(この家は2台)

_軒先に原付が置かれている(この家は2台)

原付が1台通るだけでいっぱいの路地

原付が1台通るだけでいっぱいの路地

この地区の原付ユーザーは高齢の女性が多い

この地区の原付ユーザーは高齢の女性が多い

ある家の前で、原付で出かけようとしていた50代の男性。「この家はバイクを4台持ってる。これがじいさんの、これがばあさん、こっちがせがれので、赤いのがせがれの嫁のバイク。その嫁っていうのが俺の妹で、俺はいまバイクで遊びにきて、これから帰るところ。バイクがなかったら話になんない。面白い町だろう?」と、嬉しそうに教えてくれた。

車庫には1家4人の原付が見える

車庫には1家4人の原付が見える

エヌ・ワークスの中村さんが言っていた。「原付が売れなくなったといわれるけど、有田のような町では、まだまだ便利な移動手段として活躍しているんです。いまは何かと若者にばかり目が行きがちだけど、田舎の60代、70代の高齢者が、好きなところに自由に出かけて元気でいられるのは、原付の効用として本当に大きなことなんです」。

※  ※  ※

原付の普及率、日本一。松山市と有田市と、規模の異なる2つのまちを訪ねたが、気候、地勢、産業など、いろいろな要因によって原付の便利さが際立っていた。老若男女を問わず原付は使われており、市民の足として大いに役立っているのである。

〈資料〉全国・原付の世帯普及率ランキング(20傑)

市区町村別の原付の保有台数は、総務省の「軽自動車税に関する調」より、原付一種の賦課期日現在台数(2018年7月1日現在)を抽出した(表中の原付一種の欄)。人口および世帯数は、総務省の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2019年1月1日現在)から抽出。ランキングは、1万世帯以上の都市(883団体)を対象とした。20傑を一覧表にした。

●1万世帯以上を有する市区における原付一種普及率(上位20団体)

●1万世帯以上を有する市区における原付一種普及率(上位20団体)

JAMA「Motorcycle Information」2020年3月号/特集より
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:元気な暮らしを支える原付普及率が日本一のまち!(後編)

出勤ラッシュの切り札! 原付二種が普及したまち

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●全国の市区町村から原付二種の普及率が高いまちを割り出した。

●そのトップ10に、沖縄の6市町がランクイン。

●なぜ沖縄には原付二種が多いのか、現地を訪ねて理由を探った。

原付から大型バイクまで、二輪車の交通量が多い(那覇市内)

原付から大型バイクまで、二輪車の交通量が多い(那覇市内)

原付一種(50cc以下)に引き続き、今度は原付二種(50㏄超~125㏄以下)に焦点を当て、その普及率がトップクラスのまちを訪ねる。全国の市区町村ごとに原付二種の普及率を算出したところ、全国第1位は神奈川県葉山町だった。そして2位から8位までに、沖縄県の6市町がランクインするという興味深い結果になった。まず、沖縄を訪ねてみる。

沖縄県に広まった原付二種の普及

全国の1万世帯以上を擁する市区町(883団体)について、1,000世帯当たりの原付二種の普及台数を調べたところ、沖縄県の豊見城市が107.5台で全国2位。ほかにも沖縄県勢は全国3位・南風原町、5位・西原町、6位・浦添市、7位・那覇市、8位八重瀬町と、上位を占めた。
原付一種の普及率では上位に入らなかった沖縄県の市町だが、原付二種となるとなぜトップクラスに浮上するのか、理由があるはずだ。

バイクの多さは一目瞭然

バイクの多さは一目瞭然

とくに原付二種が目立っている

とくに原付二種が目立っている

原付二種といえば、原付一種並みに軽量コンパクトで小回りが利き、よりパワーがあるため長距離走行も可能。高速道路は走行できないが、優れたコストパフォーマンスが魅力。沖縄のまちで、どう使われているのだろうか。

深刻な交通渋滞の緩和に取り組む那覇市

沖縄県の県庁所在地である那覇市を訪ねた。人口31万8,000人、14万9,000世帯を擁する都市だ。官公庁が集積し、商業、観光、文化の中心地となっている。
同市の原付二種保有台数は1万3,435台で、1,000世帯当たりの普及率は90.3台、全国7位となっている。市内を通る国道329号の交通状況を観察してみると、クルマの数が多く、またバイクの数も少なくない。スクータータイプが多くを占め、ピンク色のナンバーで原付二種とわかる。
那覇市 都市みらい部 都市計画課では、「本市内の平均旅行速度は、全国の県庁所在地の中でワースト1となっています。沖縄には鉄道がなく、公共交通は路線バスとモノレールです。このためマイカー利用が多く、市内各所で交通渋滞を引き起こしています。市の交通政策として、“誰もが移動しやすいまちをつくる”を目指して、多様な交通手段の充実、交通渋滞緩和などに取り組んでいます。実際、通勤目的で市域内を移動する自転車とバイクを合わせた“二輪車”の交通分担率は20%を超えており、この数字はかなり高い水準です。移動手段としてバイクの役割は大きいものと考えています」と話す。

那覇市の国道329号クルマもバイクも多い

那覇市の国道329号クルマもバイクも多い

那覇市ではバイクの利用環境向上のため、市内に二輪車駐車場の整備を促している。同市が設置する施設のほか、2020年1月1日からは、二輪車駐車場の附置義務条例を施行して民間での“受け皿”の拡大にも当たっているという。
同課のある職員は、「私も市外から原付二種で通勤しています。距離が長いので原付一種ではこなせないし、かといってクルマ通勤だと、市役所周辺では駐車料金が1カ月1万5,000円以上かかります。バイクなら3,000円程度で済むのが大きいですね。通勤目的の移動手段として、原付二種の利便性は非常に大きいと思います」と話していた。

モノレール利用者のために設置されたバイク駐車場(無料)

モノレール利用者のために設置されたバイク駐車場(無料)

原付二種は通勤ラッシュの“切り札”

原付二種の普及率が全国2位の豊見城市は、那覇市の南に接している。人口6万4,000人、2万5,600世帯を擁しており、原付二種の保有台数は2,754台、1,000世帯当たりの普及率は107.5台となっている。
原付二種が普及している要因について、豊見城市 都市計画部 都市計画課では、「本市から那覇市内へと通勤するための交通手段として、原付二種を使っている人たちが多いのだと思います。現状としては、那覇市の労働人口の約4割は市外からの流入で、本市からも毎日約9,000人が那覇市内へと通勤しています。幹線道路が限られているし、朝夕の交通渋滞が激しいので、那覇方面へのアクセスはバイクがいちばん速くて便利です」と話す。

那覇市内の月極めバイク駐車場周辺市町の原付二種が多い

那覇市内の月極めバイク駐車場周辺市町の原付二種が多い

また、「本市の場合、自宅でバイクの置き場に困るケースは少ないのですが、那覇市内では、バイクでも駐車場所を確保するのがたいへんです。雇用対策としてバイク置き場を用意している会社もあると思います」と話す。
2人のアドバイスを受けて、豊見城市から那覇市へのバイク通勤スポットで撮影を行った。見ての通り、車線を埋めているのは原付二種。まさに通勤ラッシュ時の“切り札”として、多くの市民に活用されているのである。

原付二種の通勤風景(朝7時30分「明治橋」付近で撮影)

原付二種の通勤風景(朝7時30分「明治橋」付近で撮影)

原付二種の普及率日本一は神奈川県葉山町

そして原付二種の普及率日本一のまちは、神奈川県葉山町だ。葉山町は、三浦半島北西部にあり、北は逗子市、東と南は横須賀市に接し、西は相模湾に面している。人口3万3,000人、1万4,300世帯を擁しており、原付二種の保有台数は1,752台、1,000世帯当たりの普及台数は122.2台となっている。
3月上旬、葉山町を訪ねた。沖縄ほどバイクの交通量は見られなかったが、それでもチラホラと原付二種が目に止まる。

葉山町は道が狭く交通渋滞が深刻

葉山町は道が狭く交通渋滞が深刻

葉山町 総務部 税務課では、「町内では原付一種の保有は減少傾向にありますが、原付二種は年々増加しており、町民の間に浸透しているのだと思います」と話す。
原付二種が普及している要因について尋ねると、「葉山町には鉄道の駅がないため、公共交通機関は路線バスだけです。逗子方面へのアクセスも、横須賀方面へのアクセスも、片側1車線の狭い道路しかないため、交通渋滞が避けられません。小回りの利くバイクなら渋滞の影響を受けにくいため、バスやクルマの移動にストレスを感じる人は、バイクをうまく活用しているのだと思います」という。
まちの実勢としては、毎日の通勤で、逗子方面、横須賀方面へ向かう就労人口が多く、朝夕の幹線道路は、バスもマイカーもノロノロ運転。横須賀の中央方面や、逗子を越えて鎌倉市、藤沢市への通勤となれば、原付一種には距離が長い。だからこそ葉山町の人たちにとって、原付二種こそがベストな交通手段なのだ。

●葉山町の原付二種保有台数(各年7月1日)

●葉山町の原付二種保有台数(各年7月1日)

同課の担当者は、「近年とくに、原付二種のメリットが広く認知されるようになってきたのではないでしょうか? 時速30㎞制限がないからクルマの流れに乗れる、駅の駐輪場に駐車できる、税金や保険など維持費も安い、二人乗りも可能など、私自身、免許を取って原付二種で通勤しようかと考えているところです」とのことだ。

交通困難地帯で機動力を発揮する原付二種

横須賀市内でバイクショップを経営する湘南森モータースの森 雄一さんは、横須賀二輪車安全普及協会の会長を努めている。仕事の手を休め、葉山町の交通事情について話してくれた。

原付二種の利便性が認知されている

原付二種の利便性が認知されている

「葉山町は御用邸もあって別荘地として全国に有名です。海もきれいだし、優雅でオシャレなイメージがあります。しかし現実には、葉山や横須賀のある三浦半島自体、東京からも遠くないのに、いくつもトンネルをくぐらないとアクセスできない“陸の孤島”のような不便さがあります。半島なので土地に起伏があって平地が狭い。海水浴シーズンになるとどっと人が押し寄せて、海岸沿いの道路はぴったりと動かなくなります。抜け道もありません。典型的な交通困難地域が点在しているのです。シートの後ろにお子さんを乗せて走っているお母さんを見かけたりすると、三浦半島の暮らしのなかで、原付二種は本当に大事な足になっていると思います」と話している。
ちなみに、葉山町では、2019年10月1日から原付のオリジナルナンバープレートを交付している。海と夕日と富士山、サーフボードを積んだクルマ、ノスタルジックなバス停、そして右下の隅にはツーリングのバイクも描かれている。同町の雰囲気をよく表しているとして、まちの人たちからたいへん好評だそうだ。

葉山町の原付ナンバープレート(90cc超~125cc以下)

葉山町の原付ナンバープレート(90cc超~125cc以下)

〈資料〉全国・原付二種の世帯普及率ランキング(20傑)

市区町村別の原付の保有台数は、総務省の「軽自動車税に関する調」より、原付二種の賦課期日現在台数(2018年7月1日現在)を抽出した(表中の原付二種の欄)。人口および世帯数は、総務省の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2019年1月1日現在)から抽出。ランキングは、1万世帯以上の都市(883団体)を対象とした。20傑を一覧表にした。

●1万世帯以上を有する市区における原付二種普及率(上位20団体)

●1万世帯以上を有する市区における原付二種普及率(上位20団体)

JAMA「Motorcycle Information」2020年4月号/特集より
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:出勤ラッシュの切り札!原付二種が普及したまち

第8回 BIKE LOVE FORUM in 大阪 開催中止のお知らせ

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第8回 BIKE LOVE FORUM in 大阪 開催中止のお知らせ

新型コロナウイルス(COVID-19)感染は予見が難しい状況となっております。
BLFにおきましても感染リスクを完全には排除できないとの観点より、参加者・関係 者の安全を最優先すべきと判断し、2020 年 9 月 10 日に開催を予定しておりました「第8 回 BIKE LOVE FORUM in 大阪」の開催を中止することに致しました。
ご理解を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

BIKE LOVE FORUM 開催実行委員会

「二輪車市場動向調査」の結果を読む 新車購入者にみる変化のポイント

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●日本自動車工業会は隔年で「二輪車市場動向調査」を行っている。

●今年4月に、2019年度調査の結果が発表された。

●調査結果のなかから、大きく変化した点などポイントを紹介する。

 

一般社団法人日本自動車工業会(自工会)が実施した「2019年度 二輪車市場動向調査」のメインである「新車購入ユーザー調査」は、過去から同じ設問を続けており、新車購入者の特徴や使用実態の変化などを把握できる。調査結果のなかから、注目すべき傾向をいくつか紹介したい。

■新車購入ユーザー調査の概要
001_新車購入ユーザー調査の概要

新車を購入する世代は「50~60代」がメイン

今回の2019年度調査で、二輪車を新車で購入した人の平均年齢は54.7歳で、前回の2017年度調査から2歳上昇した。

●新車(二輪車全体)購入者の世代構成
002_●新車(二輪車全体)購入者の世代構成
世代構成率を見るとボリュームゾーンは「50代」の30%で、「60代」も26%と多い。“人生100年時代”といわれるが、いまや50~60代が元気なことに違和感はない。「70代以上」の12%を含め、二輪車の新車購入は、50代以上が全体の68%を占めている。
近年の二輪車販売は、原付一種(~50cc)が減少傾向にあるが、原付二種(51~125㏄)は横ばい、軽二輪(126㏄~250㏄)と小型二輪(251㏄~)は微増傾向にある。
それを踏まえて“排気量×タイプ別”で世代構成率を見ると、近年売れている「126~250㏄ オンロードタイプ」は、50代が30%(前回から8㌽増)、60代が20%(同6㌽増)となり、いわゆる1980年代の“バイクブーム世代”が、新車の軽二輪スポーツに回帰してきていることが推察できる。

●新車(126~250ccオンロード)世代構成
003_●新車(126~250ccオンロード)世代構成

この傾向は、製品価格の高い「401cc~ オンロードタイプ」ではより顕著で、50代が48%(前回から8㌽増)、60代が20%(同9㌽増)となった。最新の大型オンロードモデルに食指が動き、なおかつ購買力のある50代以上が、このクラスの新車市場をいっそう強力に牽引していることがわかる。

●新車(401~オンロード)世代構成
004_●新車(401~オンロード)世代構成

一方、新車を購入した「40代」の構成率は、今回17%(前回から3㌽減)。30代以下は合わせて12%(同6㌽減)となった。より若い世代の構成率が減っているのは、たんに“若者のバイク離れ”と断じるのは早計で、若い世代が中古車市場へシフトしている可能性など、さらに検証してみる必要がありそうだ。

軽二輪スポーツのヘビーユーザーが増加

2019年度調査にみる新車購入ユーザーの週間使用日数は、全体平均で3.7日。前回調査から0.2㌽減少した。これに伴って、新車購入ユーザーの月間走行距離は、今回の全体平均が239kmで、前回調査から26km減少した。
これを“排気量×タイプ別”で見ると、とくに「126~250㏄ オンロードタイプ」では、週間使用日数が調査回ごとに減少しているなか、月間走行距離が300kmを超す“ヘビーユーザー”の構成比は減少しておらず、ツーリングなどでの長距離走行は減っていないと考えられる。近年の二輪車市場において、趣味性の高い軽二輪スポーツの人気が反映された変化・傾向といえそうだ。

●週間使用日数と月間走行距離
005_●週間使用日数と月間走行距離_01
006_●週間使用日数と月間走行距離_02

新車への満足度は期待度より高い

「新車購入ユーザー調査」では、購入した新車に対し、事前に抱いた期待度と、使用した後の満足度について、さまざまな項目ごとに比較している。
期待度が最も高い項目は「燃費がよい」で、全体の72%から期待されている。続いて「自転車に比べて楽に移動できる」69%、「身軽に動ける」63%、「維持費が安い」60%、「交通の不便さが解消できる」55%などとなっている。
こうした事前の期待に対して、使用してからの満足度との“差”に注目してみると、じつにすべての項目で満足度が上回っていた。とくに差が大きかったのは、「スピード感を楽しめる」が、期待度35%⇒満足度46%(11㌽プラス)でトップ。「乗っていて爽快感を味わえる」が期待度52%⇒満足度60%(8㌽プラス)、「交通渋滞に巻き込まれなくてすむ」が期待度48%⇒満足度56%(8㌽プラス)などとなっている。
一方、差が小さかったのは、「身軽に動ける」期待度63%⇒満足度64%(1㌽プラス)、「駐車スペースを気にしなくてよい」期待度42%⇒満足度43%(1㌽プラス)、「維持費が安い」期待度60%⇒満足度62%(2㌽プラス)などとなっていた。

●購入した新車(二輪全体)への期待度と満足度の比較
007_●購入した新車(二輪全体)への期待度と満足度の比較

期待される二輪車周辺のインフラ・制度の整備

調査では、二輪車を取り巻く周辺(施設やインフラ、制度など)に関して、二輪車ユーザーが何を期待しているかも明らかにしている。その結果を見ると、「二輪専用駐車場の整備拡大」と、「任意保険料の低料金化」への期待が最も多く、全体の45%が改善を求めている。ほかにも、「原付免許での運転可能排気量の拡大(125ccまで)」35%、「高速道路の低料金化」35%、「二輪車駐車場の低料金化」26%、「二輪車走行禁止区間の廃止」25%など、制度の見直しへの期待は大きい。

●二輪車の周辺への期待(施設,インフラに対する期待)
008_●二輪車の周辺への期待(施設,インフラに対する期待)

ここでは取り上げなかったが、この調査ではほかにも、①レンタルバイクなどにおける二輪車のサブスクリプション(定額)の受容性、②一般の人々のニーズに合う二輪車ベネフィットの発掘、③求められる「あるべき販売店」と実際との差、④乗り換え需要の動機把握などを調査した結果をまとめている。
詳しい内容は、以下のウェブサイトからPDFデータを入手し確認されたい。

■2019年度二輪車市場動向調査
http://www.jama.or.jp/lib/invest_analysis/pdf/2019Motorcycle.pdf

JAMA「Motorcycle Information」2020年6月号/ズームアップより
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:「二輪車市場動向調査」の結果を読む新車購入者にみる変化のポイント


自転車とバイクで試してみた!通勤に使用するメリットとは?

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●国土交通省が自転車通勤を奨励している。

●企業向けに自転車通勤導入マニュアルも制作して配布している。

●バイク通勤にも自転車と同じようなメリットがある。

 

001_自転車とバイクで試してみた!通勤に使用するメリットとは?
会社への通勤手段は、電車やバスなどの公共交通機関をはじめ、クルマ、バイク、自転車などのパーソナルな乗り物も使われる。普段は電車通勤で、天気のいい日にはバイクや自転車でというのも気分が変わっていいものだ。
近年、「働き方改革」といった背景もあるなかで、政府は企業に呼びかけて、自転車通勤を推進する取り組みを始めた。自転車は環境にやさしく、災害時に役立ち、交通渋滞を緩和し、国民の健康増進につながるといった理由によるものだ。
その趣旨ならば、バイクももっと通勤に活用できる可能性がありそうだ。政府が後押しする自転車通勤のメリットに照らしながら、ここではバイク通勤のメリットについても考えてみたい。

●通勤目的での交通手段別分担率(東京都市圏)●通勤目的での交通手段別分担率(東京都市圏) 「第6回東京都市圏パーソントリップ調査」(2018年調査) ※東京都市圏の通勤(自宅-勤務)トリップにおいて、自転車の分担率は約10%、バイクの分担率は約2%となっている。

「第6回東京都市圏パーソントリップ調査」(2018年調査)
※東京都市圏の通勤(自宅-勤務)トリップにおいて、自転車の分担率は約10%、バイクの分担率は約2%となっている。

国や自治体が自転車通勤を推進

国土交通省・自転車活用推進本部は、2020年4月3日、「『自転車通勤推進企業』宣言プロジェクト」をスタートさせた。自転車通勤を積極的に奨励している企業・団体を認定することで、自転車通勤の普及拡大を図っていくという。認定の要件は、①従業員用の駐輪場を確保すること、②交通安全教育を実施すること、③自転車損害賠償責任保険等への加入を義務化することの3つ。認定されると、「宣言企業ロゴマーク」の使用が認められ、ホームページや名刺にロゴを表示するなどして、会社のPRに活用できる。また、宣言企業のなかから、自転車通勤者の多さや独自の取り組みなどにより「優良企業」の認定も行っている。

「企業宣言」のロゴ(ブルー)

「企業宣言」のロゴ(ブルー)

「優良企業」のロゴ(オレンジ)

「優良企業」のロゴ(オレンジ)

このプロジェクトは、2016年に制定された『自転車活用推進法』の施策として行われている。同年、自転車活用推進本部が設置され、翌17年6月には「自転車活用推進計画」が立案されている。これにより、「自転車月間」(毎年5月)、「自転車の日」(毎年5月5日)における活動や、自転車専用道路および駐輪場の整備促進、シェアサイクル施設の拡大、安全普及、災害時活用、観光促進など、自転車を活用するための総合的な取り組みを行うことになっている。
また、地方自治体にも自転車通勤を推進するところが出てきている。愛媛県の「自転車ツーキニスト推進事業所登録制度」、栃木県宇都宮市の出前講座「自転車通勤のススメ」、警視庁の「自転車安全利用モデル企業制度」などが実施されており、今後、同じような趣旨の施策が増えそうだ。

自転車通勤制度導入の手引きを作成・配布

ここで注目したいのは、自転車活用推進本部の政策連携機関である自転車活用推進官民連携協議会が2019年5月に発行した『自転車通勤導入に関する手引き』(A4版・50頁)という冊子だ(以下のアドレスから入手先できる)。
www.jitensha-kyogikai.jp/assets/pdf/jitensha_tsukin_manual.pdf
内容は、自転車通勤のメリットを紹介したうえで、会社が自転車通勤制度を導入するに当たって検討すべき事柄を解説したもの。自転車通勤の対象者、対象自転車、通勤経路と距離、目的外使用、通勤手当て、安全とマナー、事故時の対応、保険への加入、駐輪場等の設備についてなど、社内制度のルール作りについて述べている。この手引きに示された基本的な考えは、バイク通勤制度を導入する場合にも参考にできるものとなっており、新しい時代に対応した通勤制度について考え、見直しをする際の貴重な資料といえる。

自転車通勤導入の手引き

自転車通勤導入の手引き

自転車通勤のメリットをバイクに当てはめてみる

『自転車通勤導入に関する手引き』では、会社が自転車通勤を導入することによって得られる事業者のメリットと、従業員のメリットとを整理して紹介している。
事業者のメリットとしては、電車通勤や自動車通勤から自転車に転換することで生じる「費用の削減」を第一に挙げている。次に、自転車に乗って気分よく通勤することで心身ともに健康維持・増進がなされ、仕事の「生産性の向上」が期待できるとしている。さらに、環境にやさしい健康的な企業としての「イメージアップ」を図ることができ、「雇用の拡大」にもつながるとアピールしている。

●自転車通勤を推奨することによる事業者のメリット●自転車通勤を推奨することによる事業者のメリット

これらのメリットについて、自転車をバイクに置き換えて考えてみる。まず、「経費の削減」については、場合によってはバイク通勤の効果も期待できる。自動車通勤が主流となっている企業ならば、通勤手当や駐車場費用の削減が検討できそうだ。
「生産性の向上」については、バイクも自転車と同様に期待できる。バイクは、人と車両が一体となって運転することが楽しい乗り物であり、走行すること自体が気分のよさにつながる。混雑した電車やバスのストレスから解放されるうえに、バイクを運転することで気持ちの切り替えになり、仕事に向き合う集中力の向上が期待できる。事業者にとってバイク通勤を導入するメリットは、ここがいちばん大きいものとなりそうだ。
続いて従業員のメリットについてみると、「通勤時間の短縮」が挙げられ、500mから5km弱の距離ならば、自転車の所用時間はほかの交通機関よりも短いと述べている。また、「身体面の健康増進」、「精神面の健康増進」もメリットとして挙がっている。

●自転車通勤による従業員のメリット007_●自転車通勤による従業員のメリット

「通勤時間の短縮」に関しては、バイクにも優れた効果が期待できる。この点については、一般社団法人日本自動車工業会(自工会)が過去に実測調査を行っており、東京都内の渋滞した道路(三原橋交差点―上野駅前交差点:3.4㎞)と、渋滞していない道路(等々力不動前交差点―武蔵新田駅前交差点:5.8㎞)について、交通機関別に移動にかかる時間(旅行速度)を実測しており、バイク(とくに原付二種)が最も迅速な乗り物という結果になった。このことから、バイク通勤はほかの通勤手段よりも時間を節約できると考えられ、通勤距離によっては自転車以上の効果が期待できる。
次に「身体面の健康増進」に関しては、バイクの運転が通勤シーンで“適度な運動”になるとは考えづらい。むしろ肉体的な運動量が小さいことで、疲労が少なく汗をかかずに済むことなど、バイクならではの大きなメリットと捉えることもできる。
最後の「精神面の健康増進」に関しては先に述べた通りで、とくにバイク好きな人ならば、仕事の行き帰りにバイクに乗ることで高揚感を得られたり、気分をリフレッシュできるため、精神面の健康にはよい影響をもたらすものと考えられそうだ。

●交通機関別旅行速度(東京都内)

『二輪車の利用環境デザイン』(自工会・2009年)より
【渋滞ルート】上下線とも2時間帯以上で平均旅行速度が20㎞/h未満の区間
【非渋滞ルート】上下線とも2時間帯以上で平均旅行速度が25㎞/h以上の区間

 

自転車・バイクで“模擬通勤”を実施

ここまでの考察を実地に検証するため、東京都内で仮の通勤区間を設定し、被験者に電車、自転車、バイクそれぞれで移動してもらい、走行距離と所用時間を計測したほか、交通手段ごとのメリットとデメリットについて感想をインタビューした。
被験者は東京都豊島区の27歳男性。400㏄の普通二輪車を所有しており、実験に使用してもらった。自転車はシェアリングサイクル(24インチ)を利用した。このシェアリングサイクルの駐輪場(豊島区池袋3-3-10)を起点に、東京都庁第一庁舎(新宿区西新宿2-8-1)を終点として、平日朝8時過ぎに模擬通勤を実施した。電車は東京メトロ副都心線「要町」駅から都営大江戸線「都庁前」駅までを利用。自転車とバイクはネットのルート検索を使って、それぞれのモードでの最適ルートを通行した。どの交通手段も、徒歩で移動した区間も含めて所用時間を計測。もちろんバイク・自転車は、遵法走行に徹し、けっして急がず安全に配慮してもらった。

自転車による模擬通勤

自転車による模擬通勤

バイクによる模擬通勤

バイクによる模擬通勤

結果は下表の通り。所用時間がいちばん短かったのはバイクの29分、電車は30分、自転車は33分だった。バイク・自転車は、道路の混雑状況や赤信号の数に影響を受け、電車は乗り継ぎのタイミングでタイムロスもある。1回だけの実験ではあくまで参考にしかならないが、現実的にはこうなるという結果の一つである。

●模擬通勤における起点から終点までの移動結果(2020年7月平日3日間で実施)011_●模擬通勤における起点から終点までの移動結果(2020年7月平日3日間で実施)

被験者は、次のように感想を述べた。

【電車通勤の感想】
電車通勤は乗り換えに7分かかりましたが、乗車時間自体は短くて、わりと早く着いた印象です。電車に乗ること自体は日常的なことですし、移動中は仕事のことをぼーっと考えたりして、特別に何か意識したことはありません。ただ、混雑した電車内ではウイルス感染への心配から、かなりストレスを感じます。会社が自転車通勤かバイク通勤を認めてくれるなら、なるべく電車通勤をやめて、どちらか自分に都合のいいほうを選択すると思います。

【自転車通勤の感想】
「自転車通勤のメリットは、移動の費用がかからないということに尽きると思います。都庁周辺の駐輪場も1日100円程度ですから毎日でも負担になりません。6km近く走ってかなりの運動になったので、体力づくりしたい人にはおススメです。でも私の場合は、坂が辛くて3kmまでが限界かなと思いました。汗だくになったので、着替えが必須です。それから、普段はあまり意識しませんでしたが、スマホに示されたルートが自転車で走っていい道なのかそうでないのか判然としない区間があって、違法走行していないか不安でした。歩道での走行も、人や自転車の飛び出しが気になって、サイクリング気分というわけにはいかないと思います」

【バイク通勤の感想】
「ストレスなく楽に移動できたという点では、バイクがいちばんです。交通ルールも明確なので安全運転に集中できて、ぼーっと仕事のことを考えたりすることもなく、バイクモードと仕事モードの気分の切り替えになります。この点は私にとって、大きなメリットだと感じました。ただしバイクのルートには交通渋滞もあって、爽快感までは得られなかったですね。赤信号の多さも気になりました。ちなみにこの日は雨予報だったので、レインウエアを着て出たのですが、にわか雨にも困りませんでした。自転車ではさすがに雨だと出かけたくないですね。会社に駐車できるスペースがあればいいのですが、自分で確保するとなると費用がかかります。そのあたりが気になったところです」
バイク通勤のメリットとデメリット、引き続き検証していく必要がありそうだ。

JAMA「Motorcycle Information」2020年8月号/ズームアップより
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:自転車とバイクで試してみた!通勤に使用するメリットとは?

二輪4販社トップに聞く 2021年国内市場への展望

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〈登場者〉写真左から
●寺西  猛(てらにし・たけし) (株)カワサキモータースジャパン 代表取締役社長
●濱本 英信(はまもと・ひでのぶ) (株)スズキ二輪 代表取締役社長
●室岡 克博(むろおか・かつひろ) (株)ホンダモーターサイクルジャパン 代表取締役社長
●石井 謙司(いしい・けんじ) ヤマハ発動機販売(株) 代表取締役社長

●2020年1-11月の国内自動二輪車販売実績は前年同期を上回った。
●ニューノーマルの時代にあって二輪車の有用性が見直されている。
●カワサキ、スズキ、ホンダ、ヤマハ、各販売会社の社長にインタビューした。

2021年がスタートした。カワサキ、スズキ、ホンダ、ヤマハの二輪車販売各社は、これから春の需要期に向けて販促活動がいっそう活発になる。年の始めに当たり、二輪4販社それぞれの社長を訪ね、2021年の国内二輪車マーケットにどのような経営戦略で臨むか、あるいは市場活性化にどう取り組むか、展望をズバリ聞いた。

ニューノーマルへ強さを発揮する二輪車

昨年は、世界中が新型コロナウイルスの脅威にさらされ、国内の二輪車市場にも大きな衝撃を与えた。大阪、名古屋、東京で予定されていた春のモーターサイクルショーが開催中止となり、ニューモデル試乗会など各社のイベントも自粛を余儀なくされた。ところが、2020年(1~11月)の二輪車販売実績をみると、原付一種は減少しているが、自動二輪車(50㏄超)は前年同期を上回って好調を維持している。“密”を避けて移動できるバイクの有用性が、ニューノーマルへの対応力を示しているともいえそうだ。
各社長へのインタビューは、昨年の二輪車販売を振り返るところから始まった。

●原付一種販売推移(各年1~11月)

●自動二輪車販売推移(各年1~11月)

※原付一種、原付二種は出荷台数(日本自動車工業会調べ)
※軽二輪は届出台数、小型二輪は新規検査台数(全国軽自動車協会連合会調べ)

(株)カワサキモータースジャパン 代表取締役社長 寺 西 猛 氏

1957年兵庫県生まれ。2001年に川崎重工業(株)入社。カワサキモータースフランス参与、同アメリカ社長を歴任、2014年5月にカワサキモータースジャパン社長に就任、現在に至る。

04_寺西猛氏

コロナ禍に負けなかった2020年

【本誌】 2020年のカワサキ車の販売を振り返っていかがでしたか?
【寺西】 コロナ禍のなかでしたが、結果的には前年比でプラスです。緊急事態宣言の4~5月は客足が減って出荷も止まり、販売は前年割れでした。ところが6月からドッと需要が増えて、「店頭に在庫がなくなってきたから早くほしい」という声が挙がったほどで、10月は小型二輪が前年同月比で120%、軽二輪は300%以上に伸び、一時の減少を完全にリカバリーできました。

10~20代が購買力を発揮した軽二輪スポーツ

【本誌】 それは一安心でしたね。いまどんな商品に人気があるのですか?
【寺西】 昨年9月に発売した「Ninja ZX-25R」が絶好調です。カワサキでは21年ぶりの250㏄・4気筒スポーツモデルで、2019年の東京モーターショーで発表して大きな話題を呼びました。これは本当にお勧めできるバイクです。価格が82万5,000円(消費税込)と安くはないのですが、意外にも10代後半~20代のお客様からの購入比率が高いことに驚いています。商品に魅力があれば若い世代も購買力を発揮するのだと、改めて思いました。

カワサキ Ninja ZX-25R

カワサキ Ninja ZX-25R

【本誌】 大型バイクのカテゴリーも好調に売れていると聞いています。
【寺西】 なかでも「Z900RS/CAFE」がかなりの人気を得ていて、年間約4,000台以上売れています。50代前後のリターンライダーに大ブレイクしているわけですが、その人たちの子供世代もこのモデルに関心を持っていて、確実に世代シフトが生まれていくと思います。その流れをさらに加速していくことが今後の課題だと思っています。

商品をスムースに提供できる販売店網を構築

【本誌】 カワサキモータースジャパンは、今年どんな取り組みに注力しますか?
【寺西】 大きな取り組みとしては、引き続き販売店網の再構築を図っていきます。2017~2019年までの3年間で、400㏄を超える新車を販売する「カワサキプラザ」のネットワーク化を進め、現在、全国で80店になりほぼ完成しました。これを100店まで増やします。さらに昨年12月からは、400㏄以下の新車を販売する“新ベース店”のネットワークの再構築を進めています。
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【本誌】 その取り組みにはどんなネライがあるのですか?
【寺西】 カワサキの看板のある店は全国に約700店ありますが、たとえば全店に新車を2色ずつ置いたら1,400台です。国内で1機種当たり1,400台売れたら大ヒットですが、エンドユーザーに売れなかったらたいへんです。つまり、たくさんの店にまんべんなく新車を供給することはできないため、新車を扱うお店を専門化する必要があるのです。もちろん新車を扱わない店では、引き続き中古車を扱ったり、メンテナンスやサービス業務を通じて収益を出していただく、そういう考えです。
【本誌】 ユーザーにとって、新車を売る店舗が限られるのは不便にはなりませんか?
【寺西】 カワサキプラザの構築を通じてわかったのですが、バイクを購入できる店が限られても、全体の販売台数は増えたのです。家から遠くてもプラザ店に行けば、何カ月も待たされることなく新車が購入できる、あるいはすぐに納車時期の見通しが立つので、お客様に満足してもらえます。見た目にも洗練された店内で、音楽が流れていて、コーヒーがサービスされ、ファッショナブルな用品類も飾られて、ご家族でいらしてもリラックスした気分になれる。試乗車も用意してあって目当てのバイクをしっかり比較検討してもらえる、そんな店づくりを進めていきます。
【本誌】 カワサキのお店に行くこと自体が週末の楽しみになりそうですね。
【寺西】 今年も魅力的なニューモデルが次々ラインアップされていますので、カワサキプラザをはじめとした販売店の店頭を通じて、その魅力を大いに体感していただけるよう力を入れてまいります。

(株)スズキ二輪 代表取締役社長 濱 本 英 信 氏

1958年静岡県生まれ。1981年に鈴木自動車工業(株)入社。以来一貫して国内二輪営業を担当し、1999年に(株)スズキ二輪西日本 近畿ブロック長、2012年(株)スズキ二輪社長に就任、現在に至る。

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夢に出てきたWebモーターサイクルショー

【本誌】 2020年を振り返っていかがでしたか?
【濱本】 大阪の営業マン時代に大阪モーターサイクルショーの運営委員を務めていたので、モーターサイクルショーには強い思い入れがあります。それなのに、お客様にスズキの二輪製品を見てもらう大事なモーターサイクルショーが開催できなかったのは断腸の思いでした。悔しくて悔しくて、夢にまで出てきたんです。モーターサイクルショーがネットで開催されている夢なんですね。目が覚めて「これだ!」と思って、担当の社員を集めて“Webモーターサイクルショー”をやろうと、檄を飛ばしました。日にちもないのに担当者たちは相当苦労したようですが、東京のショーが開催されるはずだった日程に合せて、なんとか実現することができました。
【本誌】 まるで本当の会場に立っているような、臨場感のあるサイトでしたね。
【濱本】 大きな反響があったので、スズキの試乗会である「ファンRIDEフェスタ」もWebでやろうと、また檄を飛ばして、それも実現して大好評。実際に触れてみることはできないけれど、それぞれのバイクの魅力がとてもよく伝わる出来栄えでした。

軽二輪スポーツに若者が熱い視線

【本誌】 Webでの広報展開をして、販売への手応えはいかがでしたか?
【濱本】 よかったのは軽二輪スポーツで、昨年発売した「ジクサー250」、「ジクサーSF250」がブレイク中です。世界的なコロナ禍の影響で生産が遅延して、なかなか供給できなかったのですが、それが改善されて、9月後半から急速に販売が伸びています。若い人たちに乗ってほしい商品なので、エイベックス所属「lol -エルオーエル」のミュージックビデオやSNSを活用して商品の情報を拡散したところ、作戦通り購入者の7割を30代以下の若者が占めています。当社の同じ軽二輪である「ジクサー150」「GSX250R」との売り分けにも成功しています。スズキ自慢の油冷エンジンで、いわばバイクの“ツウ”に好まれる商品なのですが、若い人たちにはスタイリングと、軽快な走りが大きな魅力になっているようです。

スズキ ジクサーSF250

スズキ ジクサーSF250

【本誌】 一昨年5月に復活した「KATANA」の人気はいかがですか?
【濱本】 初代のKATANAは私の入社年に出たんですよ。だから思い入れも強くて、復活は巡り合わせだからしっかりセールスしなくてはと、2019年には「KATANAミーティング」を実施しました。そうしたところファーストKATANA*注のオーナー含め1,600人ものKATANAファンが集まってくれたのです。なかには、「KATANAを復活してくれてありがとう。これでKATANAの系譜が受け継がれて、本当に嬉しい」というファーストKATANAの方がいました。商品ブランドの力というのは、私たちが思う以上に大きなものなんですね。とても新型に乗り換えてとは言えませんから、「ぜひ新型も1台、増車してください」とお願いしました。
注:ファイナルエディション(2000年)以前のKATANAを、スズキ二輪社内では敬愛を込めて「ファーストKATANA」と呼んでいる。
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ネット・SNSとリアルイベントによる相乗効果を図る

【本誌】 2021年はコロナ禍が続きそうですが、どのような販売促進をお考えですか?
【濱本】 「Webモーターサイクルショー」や「WebファンRIDEフェスタ」をやってみて、ネットやSNSによる情報拡散がどれだけ大事か実感しました。今年もWebとSNSを通じてスズキのバイクに関心を持ってもらい、ネットからいかに現実の販売店へと足を運んでもらえるか、その仕掛けに取り組んでいきます。2019年に大阪と東京のモーターサイクルショーには合計22万人以上が来場しました。昨年、Webモーターサイクルショーの閲覧は12万回以上ありました。すると、両方を合わせれば30万人以上に情報が行き渡ることになります。試乗会も同じように考えて、今後はネットとリアルイベントのハイブリッド化を図り、これまで以上の販売拡大につなげていこうと決意しています。

(株)ホンダモーターサイクルジャパン 代表取締役社長 室 岡 克 博 氏

1964年東京都生まれ。1987年に本田技研工業(株)入社。1996年Honda R&D Southeast Asia、2003年Honda R&D India、2016年Honda Manufacturing (Nigeria)歴任、2020年6月より現職。

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日本にバイク人気「来ている」感じがある

【本誌】 室岡社長は新興国への赴任歴が豊富ですが、日本に戻ってみていかがですか?
【室岡】 ナイジェリアの町には子供の姿がたくさんあって、大勢の人で賑わい、多くのバイクタクシーが行きかっている。そんな熱気とカオスの国から帰ってきて、日本は正反対だなと。社会が成熟しきって、さまざまな規制もあり、減少し続ける二輪車市場には再開拓が必要だと、気を引き締めました。
【本誌】 確かに、国内の二輪車市場は放っておいても成長する市場ではありません。
【室岡】 そうです。ただ、いま言ったように課題はあるけれど、一方で“バイク人気が来ている”という肌感覚があります。コロナ禍で、昨年の春はかなり落ち込み、需要の予測が非常に困難な状況でしたが、夏以降は販売増に転じ、バイクの有用性や機動力が改めて認識されているという感じがあります。

若者がバイクに乗り始めている

【室岡】 当社の商品でいうと、軽二輪クルーザー「レブル250」の販売が好調で、たいへん好評をいただいています。調べてみると、お客様の65%が30代以下で、さらにその80%は、免許取得後に初めてバイクを購入した人たちでした。これまで累計約2万台販売していますから、このモデルは約1万人の新しい若いライダーを生んでいるのです。日本でも若年層の開拓がしっかりできることの裏付けとなっているのです。

ホンダ レブル250

ホンダ レブル250

【本誌】 レブル250のどんな魅力が若者に支持されているのでしょうか?
【室岡】 堂々とした車格ながらも、軽量かつ優れた足つき性などの魅力が高く評価されています。ただ、ロングツーリングしたいとか、走りを楽しみたいとか、そういう志向性ではないと思います。インスタグラムで「#レブル女子」で検索してみてください。たくさん画像が出てきますが、跨った自分が“映える”バイクであることが大切な要素なのです。それが一過性の流行で、若者がバイクから離れてしまわないようにするにはどうするか、そこが次のテーマなのだと思います。
【本誌】 ここ10年、日本では原付二種の存在感が高まっています。
【室岡】 レブルとは違って、40代以上の壮年男性に支持されているのが125ccクラスの「CT125・ハンターカブ」です。このバイクで行くソロキャンプが、いま熱いらしい。「1人でツーリング」×「1人でキャンプ」、それが“男のロマンの掛け合わせ”なのだと思います。1人きりで寂しい感じもしますが、あえてそこを楽しむ。“密”を避けるいまの時代にも合っているのかもしれません。
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「HondaGO BIKE RENTAL」で市場のすそ野を拡大

【本誌】 昨年スタートした「HondaGO BIKE RENTAL」の反響はどうですか?
【室岡】 おかげさまで、4月からの半年間で約2万人の方々に登録いただいて、多くのお客様にご利用いただきました。当社としてバイクのレンタル事業は初めてですので、もっとご利用いただけるようにサービスを向上させていきます。とくに免許を取得したばかりで、これからバイク選びをしようという人に乗ってもらいたいので、立ちゴケにも対応する保険を用意したり、料金半額のクーポンを発行するなど、若い人や初めての人に安心してバイクを試してもらえるよう継続的に取り組んでいきます。
また、今年も残念ながらモーターサイクルショーが中止となりましたが、ホンダでは昨年の「Honda バーチャルモーターサイクルショー」以上に若者をターゲットにした仕掛けと内容で、まだバイクに乗っていない人たちの関心もどんどん高めていこうと考えています。ライフスタイルに合ったお気に入りのバイクの楽しみ方を見つけて、「HondaGO BIKE RENTAL」を活用したり、購入を検討していただく。今年も幅広いラインアップとさまざまなサービスを提供し、新たな需要の創出に取り組みます。

ヤマハ発動機販売(株) 代表取締役社長 石 井 謙 司 氏

1963年東京都生まれ。1987年にヤマハ発動機(株)入社。国内二輪営業経て、電動アシスト自転車「PAS」企画部門を17年間担当。2017年ヤマハ発動機販売(株)取締役、2018年同社社長に就任、現在に至る。

12_石井謙司氏

コミューティング全体の利便性を高めたい

【本誌】 石井社長は長年PAS事業に携わって、自転車にも造詣が深いそうですね。
【石井】 コミューターの世界は複雑で、自転車、電動アシスト自転車、原付一種、原付二種まで、それぞれに役割と代替性があります。そして電動アシスト自転車を含めると、国内のコミューティング需要は拡大しています。そういう環境変化も含めた全体を見渡して、原付一種や原付二種がそれぞれ適材適所に売れる市場を開拓していくことが大切だと感じています。
【本誌】 原付一種や原付二種が普及していく領域はどこにありますか?
【石井】 地方都市では移動距離や経済性の点で原付一種が生活の足として支持されており、大都市では原付二種にニーズが移ってます。こういった需要分析を行いながら、コミューティング全体の利便性を上げていきたいと考えています。

商品ブランディングを鮮明にする

【石井】 また、軽二輪以上のカテゴリーについては趣味性がプラスされますので、商品のブランディングがとくに重要です。最近のモデルで典型的なのは、昨年7月に発売した「テネレ700」です。ヤマハのアドベンチャーモデルは、第1回パリ・ダカールラリーで優勝した「XT500」から歴史が始まり、1990年代にパリ・ダカを席巻した「スーパーテネレ750」に受け継がれ、その商品ブランドは国内外で信頼を得ています。新型「テネレ700」は、オフロード走行へのこだわりが徹底していて、走破性に関してまったく妥協せずに開発したバイクです。たとえ普段はオンロード走行が多いとしても、悪路走破性はいっさい手を抜かない。これが「テネレ ブランド」であり、荒野へのロマンを駆り立てる、本当に付加価値の高い商品としてお勧めしています。

ヤマハ テネレ 700

ヤマハ テネレ 700

【本誌】 ユニークなところでは、前2輪モデルもラインアップが充実してきましたね。
【石井】 昨年発売した「トリシティ300」には初めてスタンディングアシスト機能が搭載されて、信号待ちで停車したときなど、スイッチ一つで自立支援してくれるんです。走行時にしても、前2輪の安定感は抜群で、悪路や路面環境の変化に強いという特性を持っています。LMW(ヤマハの前2輪システム)の素晴らしさをもっと広く社会に認知してもらえるように、「安心・安全のLMWテクノロジー」の強化をはかり、ヤマハブランドのバリューアップにつなげたいと思います。

普及拡大と安全運転啓発をセットで取り組む

【本誌】 ニューノーマル、新生活様式が推奨されていますがどう対処しますか?
【石井】 二輪車が感染症リスク低減のパーソナルな移動具として注目されている点はポジティブに捉えている一方で、交通事故が増えている事実もあります。私たちは「ヤマハ ライディングアカデミー」という安全運転スクールを実施しており、2020年には40回の計画に対し、コロナ禍の影響で15回の開催となりました。主に初心者や運転を不安に思う方のために用意した、午前中のトレーニングと、午後のミニツーリングをセットにしたカリキュラムが好評です。生涯にわたってバイクを楽しんでいただけるよう、これまで以上に、楽しさに加え「安心・安全」をセットで普及していきます。
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新YSPネットワーク本格展開

【本誌】 2021年以降の市場戦略における販売店網での取り組みはありますか?
【石井】 一昨年、新YSP政策を発表し、本年から本格的にリニューアルと新規出店が始まります。新YSPは、40年の歴史が培ったYSPの財産を活かし、今回の政策で、より対応品質の高いネットワークへとリニューアルします。魅力的なYSPネットワークの構築で、ヤマハファンの高い期待に応えていきたいと思います。

JAMA「Motorcycle Information」2021年1-2月号/新春インタビューより
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:二輪4販社トップに聞く2021年国内市場への展望





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